糖尿病 薬物治療
糖尿病 治療の流れ
糖尿病と診断された後は、まずはすぐに薬物療法(特にインスリン)を開始すべき状況かを医師が判断します。具体的には、HbA1cが10%以上の時などにはインスリンを診断早期から開始することが検討されます。
全身の状態を確認させて頂き、緊急性が高い、重篤な状態と判断される場合には入院が必要なこともありますので、総合病院にご紹介させて頂きます。
HbA1cが7~8%未満で薬物療法を急ぐ状況ではないと判断された場合には、食事指導、運動指導を行なった上でHbA1cが改善するかを2-3ヶ月間を目安に経過を見ます。その上で、血糖コントロール目標が達成できない場合には薬物療法を行います。
薬物治療の流れとして、糖尿病標準診療マニュアル2024では以下のように記載されております。
糖尿病標準診療マニュアル2024より引用
要約しますと、
まずはステップ1のビグアナイド系の使用を検討します。
次に、ステップ2のDDP-4阻害薬、SGLT2阻害薬の使用を検討します。
それでも血糖コントロールが不十分な場合にはステップ3のαグルコシダーゼ阻害薬、GLP-1受容体作動薬が検討されます。
基本的には1剤使用して、効果が不十分であればもう1剤追加という形で徐々に薬物を増やしていくのが一般的です。
ただしこれはあくまで一般的な流れで、薬剤種類の選択は患者さんに応じて行います。次の章で経口糖尿病薬の選択の具体例についてご説明させて頂きます。
経口糖尿病薬の選択
上述のステップ1,2,3を参考にしつつ、患者さんの個別の状態(「糖尿病の併存症(心不全、慢性腎臓病など)がある」「肥満なので体重を落としたい」など)に併せて薬剤を選択します。
薬剤選択の時に考慮される状況の例を下記に示します。
患者さんの状況 | 考慮される薬剤 | 避けるべき薬剤 |
---|---|---|
心血管系疾患あり |
GLP-1受容体作動薬 SGLT2阻害薬 |
|
心不全 |
SGLT2阻害薬 |
チアゾリジン薬 |
体重を落としたい(肥満) |
GLP-1受容体作動薬 SGLT2阻害薬 |
スルホニル尿素(SU)薬 インスリン |
低血糖を避けたい |
DPP-4阻害薬 GLP-1受容体作動薬 SGLT2阻害薬 チアゾリジン薬 |
SU薬 インスリン |
安い薬を使いたい |
SU薬 チアゾリジン薬 |
|
骨粗鬆症 |
チアゾリジン薬 SGLT2阻害薬 |
糖尿病 薬一覧
血糖降下薬の種類は、以下のインスリン分泌非促進薬(ビグアナイド系やSGLT2阻害薬など)、インスリン分泌促進薬(DDP4阻害薬、GLP-1受容体作動薬など)、インスリンに分類されます。
次に、使用頻度が高い薬剤を中心にご説明させて頂きます。
インスリン分泌非促進薬
インスリン非分泌促進薬はビグアナイド系、SGLT2阻害薬、チアリゾン系、αグルコシダーゼ阻害薬に分類されます。
ビグアナイド系
肝臓で糖がつくられるのを抑えるのに加えて、インスリンの効きをよくして血糖値を下げる効果があります。
上述の通り、糖尿病患者さんの薬物治療において第一選択薬としてまず検討されます。
薬剤名としては「メトホルミン」「グリコラン」があり、通常500 mgを1日1回から開始し、消化器症状(嘔気や下痢)がなければ1週間ごとに500 mgずつ増やすような形で増量していきます。
進行した(eGFR 30 mL/分/1.73 m²未満の)慢性腎臓病では使用できない(禁忌)ため、注意が必要です。
SGLT2阻害薬
腎臓でブドウ糖が再吸収されるのを抑え、尿と一緒にブドウ糖排出して血糖値を下げる効果があります。
薬剤名としては「スーグラ」「フォシーガ」「ルセフィ」「デベルザ」「カナグル」「ジャディアンス」があります。
上述の通り、糖尿病患者さんの薬物治療においてメトホルミンの次に検討されます。
近年、SGLT2阻害薬に関する多くの論文が発表されており、体重が減らせること、高血圧の改善効果があること、心血管病を起こしづらくなること、慢性腎臓病で腎機能が保たれ透析になりづらくなることが報告されています。
eGFR 15mL/分/1.73 m²未満の高度な慢性腎臓病ではデータに乏しく、新規に使用しないことが好ましいと考えられています。
体調悪化時にSGLT2阻害薬を内服していると脱水になりやすいため、発熱,嘔吐,下痢などの症状がある場合や食事量が低下している場合には「シックデイ」と考えてSGLT2阻害薬は一時的に中止する必要があります。
副作用として皮疹、尿路感染、性器感染があります。
チアリゾン系
筋肉や肝臓でのインスリンの効きをよくし、ブドウ糖を取り込みやすくして血糖値を下げる効果があります。
薬剤名としては「アクトス」があります。
血糖値を下がる効果のほかに、脂肪肝(非アルコール性脂肪性肝疾患)を改善することが報告されており、脂肪肝の患者さんでは積極的に使用を考慮します。
αグルコシダーゼ阻害薬
糖の分解・吸収を遅らせることで食後の高血糖を抑える効果があります。
薬剤名としては「アカルボース」「ベイスン」「セイブル」があり、1日3回、食事の直前に内服します。
インスリン分泌促進薬
インスリン分泌促進薬はDDP4阻害薬、スルホニル尿素(SU)薬、グリニド薬、GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬、イメグリミンの 6種類に分類されます。
DDP4阻害薬
インクレチンというホルモンの濃度を高めて、インスリン分泌を促して血糖値を下げる効果があります。
また、血糖値を上げるホルモンであるグルカゴンを抑えることで血糖値を下げるという効果もあります。
上述の通り、糖尿病患者さんの薬物治療においてメトホルミンの次に検討されます。
薬剤名としては1日1回内服する「ジャヌビア」「グラクティブ」「エクア」「ネシーナ」「トラゼンタ」「テネリア」「スイニー」「オングリザ」と、週1回内服する「ザファテック」「マリゼブ」があります。
特に高齢者や慢性腎臓病ではスルホニル尿素(SU)薬との併用で低血糖を起こしやすいため、SU薬を服用している患者さんに追加する際は、SU薬投与量を半減します。
また、GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬との併用は避ける必要があります。
GLP-1受容体作動薬/GIP/GLP-1受容体作動薬
インクレチンというホルモンの濃度を高めて、インスリン分泌を促して血糖値を下げる効果があります。
GLP-1受容体作動薬の薬剤名としては1日1回皮下注射を行う「ビクトーザ」「リキスミア」「バイエッタ」と、週1回皮下注射を行う「トルリシティ」「オゼンピック」「*ウゴービ」、1日1回経口から内服する「リベルサス」などがあります。
GIP/GLP-1受容体作動薬の薬剤名としては週1回皮下注射を行う「マンジャロ」などがあります。
*ウゴービは肥満症のみ保険適応です。
GLP-1受容体作動薬は、DDP阻害薬との併用は避ける必要があります。
頻度の高い副作用として消化器症状(胃のむかつき、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、食欲低下)などがあります。
また、稀ではありますが重篤な副作用として急性膵炎、胆嚢炎、胆管炎などがあります。腹部の激痛の症状で発症しますので、そのような場合は速やかに医療機関に受診する必要があります。
GLP-1受容体作動薬の使用で食欲が落ち体重減少の効果が得られますが、昨今この薬剤を美容目的に使用することが問題視されております。当院のスタンスに関して以下に記載しましたので、参照いただけますと幸いです。
保険適応外のGLP-1受容体作動薬の使用に対する当院のスタンス
グリニド薬
服用後速やかにインスリン分泌を促し、食後の血糖値を抑える効果があります。
薬剤名としては「ファスティック」「グルファスト」「シュアポスト」などがあり、通常は 1日3回、毎食直前に内服します。
スルホニル尿素(SU)薬
インスリン分泌を促し、服用後短時間で血糖値を下げる効果があります。
薬剤名としては「アマリール」「グリミクロン」「グルベンクラミド」「オイグルコン」があります。
用法: 1日1〜2回、朝または朝夕、食前または食後
安価であるというメリットがありますが、低血糖を起こしやすい薬剤です。特に高齢者や慢性腎臓病の患者さんで低血糖を起こす頻度が多いため、これらの患者さんでは使用するべきかを慎重に検討します。
イメグリミン
膵臓の細胞に働いてインスリンの分泌を促すほかに、肝臓や筋肉でのインスリンの効きを良くする作用があります。
薬剤名としては「ツイミーグ」があり、2021年より国内で発売開始となっている薬剤です。
eGFR45mL/分/1.73 m²未満の慢性腎臓病の患者さんでは、使用しないことが推奨されています。
インスリン
インスリンの種類
人の体内では1日中インスリンが分泌されており、これを「基礎分泌」と呼びます。
さらに、食事後に血糖が上がる際にインスリンが分泌されることを「追加分泌」と呼びます。
糖尿病では、この「基礎分泌」と「追加分泌」がいずれも低下してしまっているため、必要に応じて足りない分をインスリンで補完します。
株式会社 三和化学研究所より引用
インスリン製剤は作用時間のなどにより、超速効型、速効型、中間型、持効型溶解のインスリン製剤に分類されます。
さらに、2種類のインスリン製剤が混合された混合型、配合溶解のインスリン製剤があります。
上記の「基礎分泌」の不足分に関しては主に「持効型溶解」のインスリン製剤で補完します。
「追加分泌」の不足分に関しては主に「超速効型」のインスリン製剤で補完します。
下記で、それぞれの製剤の特徴についてご説明させて頂きます。
超速効型
皮下注射後、効果があらわれる時間が短く(10~20分以内)、3~5時間効果が持続します。
食事の直前に皮下注射することにより、食後の血糖上昇を抑える効果があります。
速効型
皮下注射後、効果が出るのに30分程度かかり、約5~8時間程度効果が持続します。
中間型
皮下注射後、1~3時間で効果があらわれ、約18~24時間程度効果が持続します。
持効型溶解
注射後1~2時間で効果があらわれ、ピークがほとんどなく長時間効果が持続します。そのため、「基礎分泌」の不足分を補うのに適しています。
混合型
超速効型または速効型と、中間型を、様々な比率であらかじめ混合した製剤です。
配合溶解
超速効型と持効型溶解をあらかじめ混合した製剤です。
インスリンの副作用
インスリン療法の副作用として低血糖、体重増加、糖尿病性網膜症の悪化、インスリンへのアレルギー、皮下硬結などが知られています。
インスリンの保管方法
未開封の注射製剤は冷蔵庫(2~8℃)で保管してください。一度でも凍結してしまったら使えないので冷蔵庫の吹き出し口付近は避け、冷却風のあたらないドアポケットなどに入れるようにしてください。
使用中の注射製剤は室温(1~30℃)で保管してください。基本的に冷蔵庫保管はできません、また真夏の車中などには置かないよう注意が必要です。
インスリン自己注射を行う際の注意点
白く濁っているインスリン製剤は、使用するたびに均一に混ぜてから使うようにしてください。
針をつけた後にきちんと薬液が出るか、注射する毎に空打ちを行って確認するようにしてください。
注射部位は毎回2~3cmずらすようにして、同じ場所に注射することは避けてください。
外出する際には低血糖に備え、ブドウ糖や飴などを携帯するようにしてください。
いかがでしたでしょうか。
上述のように糖尿病の治療薬には様々な選択肢があり、患者さんの状況に合わせて適切な薬剤を選択する必要があります。
名古屋市で糖尿病での外来受診をお考えであれば、金山駅前の当院への受診をご検討ください。
参考文献:糖尿病標準診療マニュアル2024、糖尿病ガイドライン2024、内科外来マニュアル第3版、日本糖尿病学会「インクレチン関連薬の安全な使用に関するRecommendation 第2版」
この記事の執筆担当者:中村嘉宏(総合内科専門医)