橋本病
橋本病とは
橋本病は自己免疫疾患の一つで、甲状腺において慢性的に炎症が起きることにより、徐々に甲状腺の機能が低下する病気です。橋本病の患者さんのうち「甲状腺機能低下症」の状態になっているのは20-25%程度です。
30-40才代の女性で発症することが多く、男性の20-30倍の罹患頻度であると言われております。
橋本病は自己免疫疾患なので、同じく自己免疫疾患であるシェーグレン症候群や関節リウマチを合併しやすいです。
橋本病 症状
首にある甲状腺が腫れてくることにより「首の腫れ」を自覚することがあります。
以下の図のように、甲状腺はのどぼとけの少し下に位置します。
あすか製薬株式会社より引用
また「甲状腺機能低下症」の状態になると、全身の代謝が低下することにより以下のようなさまざまな異常が生じます。
全身症状
倦怠感、体重増加、寒気、低体温など
消化器症状
便秘や食欲低下など
循環症状
徐脈や心拡大など
精神症状
うつ状態や無気力など
皮膚症状
乾燥、発汗低下や脱毛など
筋肉の症状
筋力低下や筋肉痛など
婦人科症状
月経過多や不妊など
採血異常
肝機能障害や、コレステロール高値
橋本病 診断基準
橋本病の診断ガイドラインには、以下の「a」および「bの1つ以上」を満たす場合に橋本病と診断すると記載されています。
a)臨床所見
・びまん性甲状腺腫大(萎縮の場合もある)
b)検査所見
・採血で抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(抗TPO抗体)陽性
・採血で抗サイログロブリン抗体陽性
・細胞診(甲状腺の穿刺による)でリンパ球浸潤を認める
橋本病 合併症
無痛性甲状腺炎
橋本病は「甲状腺機能低下」の状態になる病気ですが、一時的に「甲状腺機能亢進」の状態になることがあります。治療は不要で、通常数週〜数カ月で改善することが多いです。
シェーグレン症候群
橋本病に最も合併しやすい膠原病です。眼の渇き(ドライアイ)、舌の渇き(ドライマウス)という症状で疑い検査を行います。
シェーグレン症候群に関して詳しく知りたい方は、以下をご参照頂けますと幸いです。
関節リウマチ
シェーグレン症候群の次に橋本病に合併しやすい膠原病です。手のこわばり、関節の痛みなどの症状で疑い検査を行います。
関節リウマチに関して詳しく知りたい方は、以下をご参照頂けますと幸いです。
橋本病の急性増悪
稀ではありますが、甲状腺の機能が急速に低下してしまう事があります。
甲状腺リンパ腫
こちらも稀ではありますが、「甲状腺リンパ腫」という悪性腫瘍を合併してしまう事があります。
橋本病 検査
採血
甲状腺機能検査
・甲状腺ホルモンであるFT4と、甲状腺刺激ホルモンである TSHを検査します。
・TSHが高値、FT4が低値の場合に「甲状腺機能低下症」と診断します。
・TSHが高値、FT4が正常の場合に「潜在性甲状腺機能低下症」と診断します。
甲状腺の抗体検査
上述の診断基準にも含まれている「抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(抗TPO抗体)」と「抗サイログロブリン抗体」を検査します。
膠原病の抗体検査
膠原病であるシェーグレン症候群や関節リウマチを合併しやすいため、これらの合併を調べるために「抗核抗体」「SS-A抗体」「リウマトイド因子(RF)」「抗CCP抗体」を調べることがあります。
甲状腺超音波検査
甲状腺の超音波検査で「びまん性甲状腺腫大」「内部エコーが不均一に低下」などの所見を確認します。
骨密度検査
甲状腺機能低下症では骨粗鬆症になりやすいことが知られており、定期的に骨密度検査を実施することが検討されます。
橋本病 治療
甲状腺機能正常の場合
甲状腺機能正常(TSH正常、FT4正常)の患者さんに関しては、通常治療の必要はありません。
甲状腺機能低下症の場合
甲状腺機能低下症(TSH高値、FT4低値)の場合は甲状腺ホルモンを補充する治療が必要になります。通常「チラージン」25-50μgを1日1回内服で開始し、採血で甲状腺機能を確認しながら徐々に増量していきます。
潜在性甲状腺機能低下症の場合
潜在性甲状腺機能低下症(TSHが高値、FT4が正常)の場合は、通常TSH: 10µU/mlが持続する場合に「チラージン」25-50μgを1日1回内服で開始します。
また、「妊娠希望がある」「妊娠初期」の患者さんにおいてはTSHをより低くすることで流産や早産のリスクが下がることがわかっており、TSH: 2.5µU/ml以下を目標に「チラージン」を内服します。
橋本病 生活の注意点
運動
甲状腺のホルモンが正常値であれば日常生活での制限はなく、スポーツを行って問題ありません。
甲状腺機能低下症の状態の場合には運動を行うことにより筋肉痛になることもあり、安静が必要になるケースもあります。
食事
海藻類などヨウ素摂取過多により甲状腺機能に影響が出てしまうと言われていますが、実際には毎日大量に食べるようなことをしなければ問題なることは滅多にありません。
参考文献:甲状腺疾患診断ガイドライン2021、あすか製薬株式会社、日本内分泌学会
文責:中村嘉宏(総合内科専門医)