関節リウマチ 治療
関節リウマチの治療は近年非常に進歩してきており、痛みを和らげるだけではなく関節の炎症を抑えることで関節の破壊、変形を止める「寛解」を目指すことが可能になっています。「寛解」の状態を維持できれば、日常生活に支障を来さずに過ごすことが可能です。
症状が出てから早期に適切な治療を開始することが重要であることが知られており、特に発症から3ヶ月以内では治療が効きやすく、より少ない薬の量で寛解を達成することが可能です。そのため、発症早期に専門医に受診することが極めて重要と考えられています。
ガイドラインの推奨
関節リウマチ診療ガイドライン2024では、以下のように記されています。
治療目標
関節リウマチの疾患活動性の低下および関節破壊の進行抑制を介して、長期予後の改善、特にQOLの最大化と生命予後の改善を目指す。
治療原則
A. 関節リウマチ患者の治療目標は最善のケアであり、患者とリウマチ医の協働的意思決定に基づかなければならない。
B. 治療方針は、疾患活動性や安全性とその他の患者因子(合併病態、関節破壊の進行など)に基づいて決定する。
C. リウマチ医は関節リウマチ患者の医学的問題にまず対応すべき専門医である。
D. 関節リウマチは多様であるため、患者は作用機序が異なる複数の薬剤を必要とする。生涯を通じていくつもの治療を順番に必要とするかもしれない。
E. 関節リウマチ患者の個人的、医療的、社会的な費用負担が大きいことを、治療にあたるリウマチ医は考慮すべきである。
また関節リウマチ診療ガイドライン2024では、以下のように治療を進めることが推奨されています。
関節リウマチ診療ガイドライン2024改定より引用
要約しますと、薬剤の第一選択は「メトトレキサート(MTX)」の使用を基本に考えます。治療開始初期には、補助的治療として「ステロイド」「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」の使用を検討します。
「メトトレキサート」を開始、増量した上で3-6ヶ月間経過を見て、関節リウマチの疾患活動性が残っている場合には「その他のリウマチ薬(csDMARD)」や「生物学的製剤(bDMARD)」、「JAK阻害薬(JAKi)」を追加します。
薬剤の選択は疾患活動性や安全性と、その他の患者さんの状態(合併病態、関節破壊の進行など)に基づいて決定します。
実際に上記の流れで「薬剤追加」→「治療効果」を繰り返していくと、関節のリウマチの疾患活動性を抑えることができている「寛解」という状態まで改善することが、特に発症後早期に適切な治療を受けた患者さんでは期待できます。この「寛解」の状態を、ステイドを中止した上で維持することが重要です。
「寛解」の状態を少なくとも半年〜1年以上維持できれば、その後少しずつ(年単位で)薬剤の減量を検討します。現時点のデータはどのくらいの期間「寛解」していれば薬剤を減量して良いかや、薬剤の減量ペースに関して明確なエビデンス(根拠となるような論文)は不十分です。ですが、少なくともいきなり薬剤を中止してしまうと高率に関節リウマチの疾患活動性が再度悪化してしまうため、少しずつ慎重に減らしていく必要があります。
以下で、各薬剤についてご説明させて頂きます。
メトトレキサート(MTX)
ガイドラインのアルゴリズムでも「関節リウマチと診断された場合にはまずメトトレキサートを考慮」となっているように、使用できる患者さんにおいてはまず使用するべき薬剤です。
効果が出てくるのが比較的早く(4~8週間以内)、使い方を間違えなければ安全性も高いため関節リウマチの中心的な薬剤となっており、「アンカードラッグ」と呼ばれています。
メトトレキサート錠
通常、4〜6mgを週に1回から内服開始し、そこから2週間おき程度に徐々に増量していきます。副作用や疾患活動性の確認をしながら、12〜16mgを週に1回程度まで増量します。
副作用として、間質性肺炎、消化器症状(下痢や吐き気、嘔吐)、肝機能障害、貧血、口内炎などがあります。
副作用の対策として、メトトレキサート内服開始時や内服中には胸部のレントゲンを撮影し間質性肺炎がないことを確認します。
メトレキサート内服中は、肝機能や貧血の値を、定期的にチェックしていきます。
また、葉酸である「フォリアミン」5mgを、メトトレキサートを内服した2日後に、週に1回内服します。
メトジェクト皮下注
消化器症状のためメトトレキサート錠が内服できない、増量できないという患者さんではメトジェクトへの切り替えが検討されます。
メトトレキサートに関してより詳しく知りたい方は以下をご参照頂けますと幸いです。
ステロイド
ステロイド内服
ステロイドは即効性が高く関節リウマチの炎症を速やかに抑えることが期待できるので、治療初期に用いられることが多い薬剤です。
通常、関節リウマチに対して使用する場合には「プレドニン錠」15-20mgを1日おき(隔日)に内服開始します。
1日おきに内服する理由としては、以下のような副作用が出ることを最低限にするためです。また、内服開始から8-12週間で減量し、中止することが好ましいです。
ステロイドの副作用としては不眠、うつ、精神高揚、食欲亢進、浮腫、血圧上昇、免疫力の低下、皮膚萎縮、骨粗鬆症などがありますが、上記のような最小限の使い方を行えば副作用が問題になる可能性は低く、比較的安全であると考えられます。上述のように炎症を速やかに抑えることができるので、関節リウマチのガイドラインにおいても疾患活動性を有する場合には初期治療としての使用が推奨されています。
ステロイド関節注射
症状が強い時や、腫れている関節の数が少ない(1~2箇所)時には、ケナコルトというステロイドを関節内に注射することが検討されます。
関節注射をした当日に強い痛みを自覚することがありますが、通常は注射を行った48時間以内に痛みや腫れなどの症状に改善が見られます。
稀ではありますが関節穿刺により細菌感染を起こしてしまうことがあります。注射後に48時間以上痛みが悪化し続ける場合には感染してしまっている疑いがあるため、速やかに医療機関に受診する必要があります。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
NSAIDSは、痛みなどの症状改善の他に、関節の炎症を抑える効果が期待できます。
ただし関節リウマチの関節の変形を予防する効果や免疫の異常を改善する効果はないと考えられているので、治療初期に他の薬剤と併用しつつ、必要最小限に使用します。
副作用として腎機能の悪化、胃潰瘍という副作用の危険性があり、特に慢性腎臓病や過去に胃潰瘍を起こしたことがある方に関しては内服して良いか慎重に検討します。
上記の副作用の懸念があるため痛い時だけ内服する「頓服」が基本で、痛みが強い場合に「定期内服」を考慮します。定期内服を開始した場合でも、他の薬剤による治療で痛みが軽減した段階で「頓服」への切り替えを行います。
NSAIDSの種類としては、以下があります。
ボルタレンSRカプセル
炎症や痛みを抑える効果が強いことが特徴で、定期内服の場合には37.5mgを 1日2回内服します。
ロキソニン
炎症や痛みを抑える効果と、胃腸障害を起こしてしまう危険性のバランスが良い薬剤で、定期内服の場合には通常60mgを 1日3回で内服します。
セレコックス
胃腸障害の少ないと考えられている薬剤で、定期内服の場合には通常200mg を1日2回で内服します。
その他のリウマチ薬(csDMARD)
その他のリウマチ薬として「サラゾスルファピリジン」「イグラチモド」「タクロリムス」「ミゾリビン」「ブシラミン」があり、以下のような患者さんで選択肢となります。
・メトトレキサートが使いづらい、使えない
・メトトレキサートで効果不十分だが、生物学的製剤は使いづらい
・生物学的製剤を使用して効果があるが、もう少し疾患活動性を抑えたい
特に使用頻度の高い「サラゾスルファピリジン」と「イグラチモド」について以下でご説明させて頂きます。
サラゾスルファピリジン
感染症の心配が少なく、妊娠中も使用できるため使用しやすい薬剤です。
1~2 カ月という比較的早期に効果が出てくることも特徴です。
主な副作用として皮疹、発熱、、吐き気や胃不快感などの胃腸症状や、採血で肝機能障害、血球減少が知られておりで、服用開始から 1 カ月以内に起きることが多いです。内服開始後このような症状が出た場合には内服を中止する必要があります。
薬剤名は「アザルフィジン」で、通常500 mg 1 日 1 回朝から開始し、その2週間後に来院して頂き採血で異常がないかの確認や、皮疹や発熱などの副作用がないかを確認します。副作用が出ていなければ500 mg 1 日 2回朝夕食後に増量し、さらにその2週間後に副作用チェックのために来院して頂きます。
イグラチモド
感染症の心配が少なく使用しやすい薬剤ですが、妊娠または妊娠している可能性のある女性では使用できません。他にも胃潰瘍や間質性肺炎を起こしたことがある患者さん、血をサラサラにする薬である「ワーファリン」を内服している患者さんでは使用できません。
通常、内服開始後6〜8週間以降で効果が認められます。
またNSAISDsと似た薬剤であるため、痛みを軽減する効果が強いです。NSAISDsと併用しない方が好ましいため、内服している場合には中止します。
主な副作用として、血球減少、肝機能障害、腎機能障害が報告されており、定期的に採血、尿検査で確認することが必要です。また稀ではありますが薬剤が原因の肺炎(薬剤性肺炎)が起こることがあり、発熱や咳が持続する場合には医療機関に相談をして下さい。
薬剤名は「コルベット」ないしは「ケアラム」で、通常25 mg1日1回朝内服から開始します。内服開始後の4週間後に採血で問題がないことを確認した上で25 mg1日2回朝夕内服に変更します。
生物学的製剤(bDMARD)
メトトレキサートで効果が不十分、もしくはメトトレキサートが使用出来ない患者さんで疾患活動性が高い場合に、使用が検討されます。
生物学的製剤の中でTNF阻害薬、IL-6受容体阻害薬、T細胞共刺激経路阻害薬に分類され、いずれの薬剤も有効性は同等であると報告されています。
いずれの種類でも高い治療効果が見込める一方で、体内の免疫を抑えてしまうため重症な感染症の危険性は増してしまうことが知られています。そのため、治療開始前に帯状疱疹ワクチン、肺炎球菌ワクチンの接種を行うことが重要です。
TNF阻害薬
薬剤名としては「エンブレル」「ヒュミラ」「シンポニー」「シムジア」などがあり、メトトレキサートと併用することで特に効果が見込めます。
IL-6受容体阻害薬
薬剤名としては「アクテムラ」「ケブザラ」などがあり、メトトレキサートと併用しなくても一定の効果が見込めるため、メトトレキサートが使用しづらい患者さんで使用しやすい薬剤です。
T細胞共刺激経路阻害薬
薬剤名としては「オレンシア」があり、抗CCP抗体陽性例において有効性が高いと報告されています。
生物学的製剤に関してより詳しく知りたい方は、「生物学的製剤」をご参照頂けますと幸いです。
JAK阻害薬(JAKi)
生物学的製剤と同等の効果が見込め、内服製剤のため注射しなくて良いのが特徴の薬剤です。
しかしながら、現状では長期安全性が十分確認できていないことより、ガイドラインでは生物学的製剤(bDMARD)を優先することが勧められています。
そのため生物学的製剤で効果不十分の患者さんで、使用することが検討されます。
薬剤名としては「ゼルヤンツ」「オルミエント」「スマイラフ」「リンヴォック」「ジセレカ」があり、いずれも内服製剤です。
体内の免疫を抑えてしまうため重症な感染症の危険性は増すことは生物学的製剤(bDMARD)と同様ですが、特に帯状疱疹にかかってしまう危険性が増すことが報告されており、命に関わることもあるため必ずワクチン接種を行なっておく必要があります。
私も過去に、JAK阻害薬内服中に重篤な帯状疱疹感染を起こした後に、他院より転院されてきた患者さんを経験したことがあります。患者さんに許可を頂いた上で診療の経過をまとめて、帯状疱疹の予防接種の重要性について論文として報告させて頂きました。
いかがでしたでしょうか。
関節リウマチの治療は近年どんどん発展してきております。そのため発症早期に専門医が診療開始できれば、関節が変形するなどの後遺症を残さずに通常の日常生活を送れるようになることが多い病気です。
東海エリア、名古屋で関節リウマチ専門医の外来をお探しであれば、是非金山駅前の当院への受診をご検討ください。
参考文献:関節リウマチ診療ガイドライン2024、メトトレキサート使用と診療の手引き2023年度版
この記事の執筆担当者:中村嘉宏(リウマチ専門医、指導医)