生物学的製剤
生物学的製剤とは
生物学的製剤はバイオテクノロジー(遺伝子組み換え技術など)を用いて開発された薬剤で、 「メトトレキサート」で効果不十分の患者さんに用いることが多いです。
関節リウマチで多くの患者さんがまず使用する薬剤は「メトトレキサート」で、有効性と安全性のバランスの良い薬剤です。ですが、関節リウマチの患者さんの中にはメトトレキサートのみでは関節の炎症を抑えられない患者さんが一定数いらっしゃいます。関節の炎症が持続すると、関節が変形してしまい元に戻らないこともあり得ます。
生物学的製剤には副作用や費用面などの問題点はありますが、メトトレキサートでは効果不十分な患者さんに投与することで「関節の腫れ、痛みを改善する」「寿命を伸ばす」という良い結果が示されています。そのため必要な患者さんにおいては早期に開始することが重要で、ガイドラインでも推奨されております。
生物学的製剤はTNF阻害薬、IL-6受容体阻害薬、T細胞共刺激経路阻害薬に分類されます。薬剤によって様々な特徴がありますが、効果に関してもいずれの薬剤でも概ね同等であると報告されています。
患者さんによって、どの薬剤が効きやすいかという個人差があります。研究がされている領域ではありますが、現時点でどの投与開始前に効きやすいかどうかを判断することは難しいです。そのため、治療開始した製剤の効果判定は投与開始から12〜16週で行い、効いていない場合には漫然と無効な治療を継続しないことも重要です。
いずれの薬剤も感染症にかかりやすくなるなどの注意点があり、定期的な診察,採血で安全性に関しても確認していく必要があります。
関節リウマチの疾患活動性がほとんど無い状態である「寛解」がある程度の期間(1年など)継続的に達成できていれば、薬剤の減量や投与期間の延長が検討できます。
生物学的製剤 一覧
ここでは関節リウマチに使用できる生物学的製剤の各製剤を、「TNF阻害薬」「IL-6阻害薬」「T細胞共刺激経路阻害薬」に分けてご説明させて頂きます。
TNF阻害薬
TNF阻害薬は、関節リウマチの病態において大きな役割を担うTNFαを標的とする薬剤で、TNFαを阻害することで関節の炎症を抑えることができる薬剤です。
TNF阻害薬の中でも違いはありますが、メトトレキサートと併用することでより強い効果が期待できるので併用することがを原則と考えています。
薬剤名としては「エンブレル」「ヒュミラ」「レミケード」「シンポニー」「シムジア」があります。
「レミケード」は点滴製剤ですが、当院では院内滞在時間を短縮した方が患者さんの利便性が良いと考え、そのほかの4種類の皮下注射のみ対応させて頂きます。
若年性特発性関節炎患者支援の手引きより引用
シンポニー
50~100 mgを4週に1回皮下注射します。
関節リウマチの皮下注射製剤の中で最も注射の間隔が長く、利便性が高い薬剤です。
ヒュミラ
40~80mgを2週に1回皮下注射します。
リウマトレックスとの併用により効果が併用により効果が最大化すると考えられています。
エンブレル
25mgを週2回、もしくは50mgを週1回皮下注射します。
薬剤の効果が切れるのがTNF阻害役の中で最も短く、そのため感染症などにかかってしまった際に薬剤の効果がすぐに無くなるので、安全性が高いと考えられています。
シムジア
200 mgを2週に1回、もしくはは400 mgを4週間に1回皮下注射します。
胎盤を通過しないため、妊娠・出産を予定する女性に使用しやすい薬剤です。
IL-6阻害薬
IL-6阻害薬は、IL-6を介した炎症を抑えることにより、関節の炎症を抑えることができる薬剤です。
メトトレキサートと併用しなくても一定の効果が見込めるため、メトトレキサートが使用しづらい患者さんで使いやすい薬剤です。
また、TNF阻害薬が効かなかった患者さんでも効果が期待できます。ただし、効果が出てくるまで2〜3カ月ほどかかることが多いです。
また、主な副作用として採血で分かる白血球現象、血小板減少、肝機能障害があり、定期的な採血で確認します。
免疫を抑える薬剤のため感染症にかかりやすくなりますが、採血で「CRP」という炎症の値が抑えられるため、肺炎などの感染症の早期に気づきづらいという注意点があります。これに関しては、早期に診断して治療すれば通常問題ありません。
頻度は稀ですが注意すべき副作用として腸に穴が開いてしまう「消化管穿孔」があり、腹痛,発熱などの症状がある場合には速やかに精査をする必要があります。
IL-6阻害薬の薬剤名としては「アクテムラ」「ケブザラ」があります。
若年性特発性関節炎患者支援の手引きより引用
アクテムラ
アクテムラに関しては点滴静注製剤と皮下注射製剤がありますが、当院では院内滞在時間を短縮のため皮下注製剤を使用致します。
アクテムラは162 mgを2週間に1回皮下注射を行います。
ケブザラ
ケブザラは50〜200 mgを2週間に1回皮下注射します。
アクテムラで効果がない場合にも、有効性が期待できる薬剤です。
T細胞共刺激経路阻害薬
T細胞共刺激経路阻害薬は、T細胞の活性化を抑制することにより関節の炎症を抑えることができる薬剤です。
メトトレキサートやTNF阻害薬が効かない患者さんに対しても効果が期待できます。
他の生物学的製剤と同様に感染症にかかりやすくなりますが、生物学的製剤のなかでは比較的副作用が少なく、比較的安全に使えると考えられています。そのため、高齢者で使いやすい薬剤である可能性があります。
ただし、喫煙をされる方に多い「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」の患者さんでは肺が悪くなることがあるので注意が必要です。
薬剤名としては、現在「オレンシア」のみです。
オレンシア
オレンシア点滴静注製剤と皮下注射製剤がありますが、当院では院内滞在時間を短縮のため皮下注製剤を使用致します。
オレンシアは125mgを1週間に1回皮下注射します。
生物学的製剤 費用
現在準備中です
いかがでしたでしょうか。生物学的製剤の副作用を知っておくことも重要ですが、必要な状況では怖がり過ぎずに使用する事が重要と考えております。
東海エリア、名古屋で関節リウマチ専門医の外来をお探しであれば、是非金山駅前の当院への受診をご検討ください。
参考文献:関節リウマチ診療ガイドライン2024
この記事の執筆担当者:中村嘉宏(リウマチ専門医、指導医)