痛風
痛風とは
痛風とは高尿酸血症が持続した結果、関節液の中に尿酸結晶が沈着し、それにより関節に炎症が起きる病気です。関節の他にも、軟骨、腱、皮膚(皮下組織)にも沈着することが知られています。
30~50歳代の男性に発症することが多く、95%が男性と報告されています。
日本において食事の欧米化により高尿酸血症の患者さんが増えております。それに伴い、痛風の患者さんも増加しており、日本国内で1986年の25万人程度から2016年には110万人と、30年間で約4倍に増えていると報告されています。
典型的には足の親指の付け根が腫れて激烈な痛みがあり、風が吹くだけでも痛いと言うことで「痛風」という名前がついています。
痛風の原因
血液中の尿酸の濃度(血清尿酸値)が高い状態である「高尿酸血症」が持続することにより、関節や軟骨、腱、皮膚(皮下組織)に尿酸結晶が沈着することが原因です。
尿酸値が高値の原因に関しては、プリン体を多く含む飲食物の摂取過剰と、慢性腎臓病が主な原因になります。詳しくは「尿酸値が高い原因 」をご参照ください。
具体的に、尿酸値が上がりやすい食事に関しては「高尿酸血症」の「食事療法」をご参照ください。
特に尿酸値が9.0mg/dL以上では痛風発作のリスクが急上昇してしまうことが報告されております。
痛風の症状
初期症状 痛風発作
痛風発作の前兆として、足の親指の付け根の関節(母趾MTP関節)が「チクチクする」「ムズムズする」「少し痛い」というな症状が出ることがあります。特に、痛風発作を何度か経験している方が前兆を感じることがあり、痛風発作の半日〜一日前から自覚し始めます。
痛風発作の初期症状としては、以下の絵のように関節(典型的には足の親指の付け根)の強烈な痛み、腫れ(腫脹)や赤み(発赤)、熱い(熱感)という関節炎の所見を自覚することが多いです。
Mayo Clinic Guide to Arthritisより引用
痛風のその他の症状
典型的な症状である足の親指の付け根の関節炎の症状以外にも、足首、膝、手首、手指などに関節炎が起きることがしばしばあります。
関節の他にもアキレス腱に炎症が起き、痛みが出ることもあります。
高尿酸血症の未治療の期間が長期になると、耳や手指、足に「痛風結節」というしこりのようなものが出来ることがあります。
痛風結節
「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版」より引用
痛風発作後に薬物治療を行うことが出来なかった場合には、初めの3日間は強い痛みが継続し、7日後も痛みが持続することが多いですが徐々に軽減してきます。
痛風は再発を繰り返すことが多く、放置すると関節が破壊されてしまい、手足などの関節が変形してしまうこともしばしばあります。
痛風の検査、診断
中年男性で元々高尿酸血症がある、足の親指の付け根の関節(母趾MTP関節)が急激に痛くなるというような典型的な経過であれば診断は容易です。
手指などの多くの関節が腫れる場合などは、関節リウマチや偽痛風など、他の関節炎を起こす病気と見分けがつかないこともあり、診断に難渋する症例もあります。その場合は、問診、身体診察や以下の検査を組み合わせて最終的な診断をします。
血液検査
痛風に特徴的な血液検査所見はありませんが、痛風発作が疑われる時点で炎症反応(CRPなど)が上昇しているのが典型的ですので、それを確認します。
また、以前に高尿酸血症が高くないかなどの推移を確認します。痛風発作時には尿酸値が普段よりも低下することもあるため、「発作時に尿酸値が低いから痛風ではない」とは言えません。
レントゲン検査
痛風を繰り返している場合には、関節面から少し離れた部位に「びらん」をいう骨が欠けるような所見が出ることがあるためレントゲン検査で確認します。ただし、初回発作など早期には関節が破壊されていないためレントゲンでは異常がないことが多いです。
例として、下の図の矢印の関節でびらんが確認できます。
Lancet 2021; 397: 1843–55より引用、改変
関節超音波検査(関節エコー検査)
関節エコー検査は、関節の腫脹の状態、炎症の状態をリアルタイムに観察することが可能です。そのため、その時点での関節炎の有無を確認できます。
レントゲンではわからないことが多い初回の痛風発作の際でも、関節エコー検査では異常を検出することが可能です。
関節エコーで痛風に特徴的な「double contour sign」というような所見(下図、赤矢印)があれば痛風の可能性がかなり高くなります。
Lancet 2021; 397: 1843–55より引用、改変
また次に説明する「関節液検査」を行うための関節液が採取できるかどうかを関節エコー検査で確認します。
関節液検査
関節液検査は関節炎の原因を調べるために非常に有用な検査ですが、関節を針で刺し関節液を採取(関節穿刺)する必要があります。
また検査をするために関節液の量がある程度あることが好ましいため、痛風発作で最も多い足の親指の付け根の関節(母趾MTP関節)の場合には関節穿刺を行うことが難しいです。ですので、通常は膝など大きな関節に関節液が貯留していることをエコー検査で確認できた際に、関節穿刺を行います。
この関節液検査では主に以下を確認します。
白血球の細胞数
関節液の中の白血球の細胞数を確認することで「炎症の程度」を確認することが可能です。通常痛風では関節内の炎症が高度なため、白血球の細胞数が高度に増加しています。
細菌検査
痛風が疑われても、実際には細菌感染であることもあり得ます。細菌感染であれば抗生剤を投与しないと改善しないため、「細菌培養検査」を提出して関節液内に細菌がいないことを確認します。
尿酸結晶の確認
関節液を顕微鏡で確認し、「尿酸結晶」が確認できれば痛風の確定診断が可能です。一方、尿酸結晶が確認できない場合には痛風である可能性は下がります。
ただし、1回目に尿酸結晶が確認できなくても2回目の関節液で確認できるということもあるので、初回に尿酸結晶がなくても「痛風ではない」とは言い切れません。
痛風 急性期の薬物治療 痛風発作の治し方
痛風の治療は、痛風発作時の急性期の治療と、慢性期の治療に分けて対応をする必要があります。
痛風発作の痛みにより日常生活がままならなくなりますし、治療により炎症を抑えないと関節が破壊されてしまう原因になりますので、痛風発作を早く治すことが重要で、痛みの発症から24時間以内の急性期に治療を行うことが望ましいとされています。
治療薬には非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDS)、コルヒチン、ステロイドがあります。また、ステロイドを関節内に投与するという方法もあり、これらを患者さんの状態(腎機能や基礎疾患など)に応じて使い分けます。
非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDS)内服
NSAIDSは、「ロキソニン錠」などの痛み止めとして使用される薬剤ですが、痛風の治療においては痛み止め以上の役割があり、炎症を抑えることにより痛風発作の改善が期待できます。
痛風発作に対しては、NSAIDSの中でも「ナイキサン錠100mg」を1日6錠(朝夕内服)程度の分量で使用されることが多いです。
NSAIDSの副作用として胃腸障害、腎機能障害などがあり、胃潰瘍や慢性腎臓病の方は使いづらいです。これらの疾患を持っている場合でも、他の薬剤が使いづらい場合にはNSAIDSを使用することもありますが、使用は短期間に留めて注意深く副作用を確認する必要があります。
コルヒチン内服
NSAIDSと同様に痛風発作による炎症を抑えることにより痛風の改善が期待できます。通常、コルヒチン0.5mg錠を1日1~2回内服します。
また、NSAIDSとコルヒチンを治療開始時から併用することもよくあります。
コルヒチンはNSAIDSと違い、腎機能悪化は起きないため早期(ステージ3まで)の慢性腎臓病の患者さんでは比較的使いやすいです。ただし、腎機能に応じて投与量の減量が必要で、高度の腎機能障害では0.5mg錠を2日に1回内服などに減量します。
コルヒチンの副作用としては胃腸の症状(腹痛、下痢、吐き気)があり、内服開始後にこのような症状が出た場合には内服を中止し、主治医に相談するのが好ましいです。
ステロイド内服
NSAIDSと同等に痛風に対して有効であるとされています。使用する際には、ステロイドの中の「プレドニゾロン」を20~30mgを1日1回で内服し、2-5日程度継続した後に減量し、10日以内に中止するのが一般的です。
ステロイドは、NSAIDSやコルヒチンと比較して糖尿病が悪化する可能性があるなど副作用も多い薬剤です。そのため、腎機能が悪いなどでNSAIDSが使いづらい場合に選択されるケースが多いです。
ステロイド関節内注射
腫れている関節が1~2箇所で膝などの大きい関節の場合には、内服は行わずにステロイドを関節内に投与するのみで、炎症の改善が見込めます。
痛風の再発予防
生活習慣の改善
痛風の急性期の治療を行い、痛みや腫れが治った後には痛風の再発の予防をすることが重要で、尿酸値を6.0mg/dL以下にコントロールする必要があります。
そのためには食事療法、アルコール摂取制限、運動療法のいずれも重要ですが、これに関しては「尿酸値が高い時の対応 治療」で説明しているので是非ご参照ください。
急性期以降の薬物療法
尿酸値を6.0mg/dL未満に維持することで尿酸結晶が縮小、消失することが期待でき、痛風結節の改善が期待できます。また、重症例では尿酸値を5.0mg/dL未満にすべきという意見もあります。
また痛風は尿酸値が高いほど再発しやすいことがわかっています。生活習慣の改善がまず基本ですが、それだけでは尿酸値を6.0mg/dL未満で維持することが難しいことも多く、その場合には薬物治療を継続的に行っていく必要があります。
尿酸値を低下させる薬剤である尿酸産生抑制薬、尿酸排泄促進薬(こちらに関しては高尿酸血症の「薬物治療」をご参照ください)を使用しますが、注意すべき点としては尿酸を下げる薬剤を開始した際に痛風が再発しやすいことが知られています。
そのため、痛風の急性期治療後にも、血清尿酸値を下げながらコルヒチン内服を6-9ヶ月程度継続することがあります。
また患者さんご自身でコルヒチンを持っておいて頂き、発作の前兆が見られた際に1錠(0.5mg)内服することにより痛風発作に至るのを防ぐことができることがあります。
痛風は何科に行けば良いか
足の指などの関節が痛くなるため、痛風は整形外科に受診して診断されることが多いかと思います。ですが、痛風の根本的な原因である高尿酸血症は糖尿病、高血圧、肥満 メタボリックシンドロームなどの内科疾患を合併しやすいことが知られています。高尿酸血症の管理は、これらの内科慢性疾患と同様に生活習慣の改善が第一ですので、痛風の再発を防止するためには生活習慣病の診療に精通している内科医により管理をすることが好ましいと考えています。
また、痛風患者さんは慢性腎臓病を合併していることも多く薬剤の選択、量も腎機能に応じて調整しないといけませんので、この点からも薬剤調整に慣れている内科医の管理が好ましいです。
内科医の中で普段から関節痛に関する診療を行っているのは「リウマチ/膠原病科」ですので、通院できる範囲で該当する科がある場合にはそこに受診されるのが良いかと思います。東海エリア、名古屋市で医療機関をお探しの方は、是非金山駅前の当院への受診をご検討ください。
参考文献:高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版
この記事の執筆担当者:中村嘉宏(リウマチ専門医、腎臓内科専門医)