高尿酸血症(尿酸値が高い)
尿酸とは
尿酸とは、プリン体という物質が体内で分解される際に生じる老廃物です。
プリン体は主に肝臓で尿酸に分解され、一時的に体内に蓄えられた後に尿や便として排出されます。
尿酸値とは 尿酸の基準値
尿酸値とは血液中の尿酸の濃度のことを指し、7.0mg/dLまでが正常で、それを超えると尿酸値が高い状態、すなわち「高尿酸血症」と診断されます。
この高尿酸血症は年々増加しており国内に1000万人以上いると推定されており、日本における食生活の欧米化が原因と考えられています。
尿酸値が高い原因
通常体内で作られる尿酸の量と、尿や便から排泄される尿酸の量は一定に保たれますが、尿酸値が上昇してしまう主な原因としては以下が知られています。
摂取過剰
プリン体を多く含むビールやレバーなどの飲食物(「食事療法」で説明しています)を、排泄できる量に比べて過剰に摂取することにより、尿酸値が上昇してしまいます。
排泄低下
慢性腎臓病や脱水により尿に尿酸が排泄されづらくなる、ということが知られています。
また、利尿薬などの薬剤により尿酸が尿に排泄されづらくなることも知られています。
比較的稀ですが、遺伝的に尿酸が腎臓から排泄されづらい人がいることもわかっています。
尿酸値が高いとどうなるか 高尿酸血症の合併症
尿酸が高い「高尿酸血症」の状態でも、通常自覚症状はありません。ですがこの高尿酸血症の状態が持続すると、体内に結晶となった尿酸が沈着してしまうことがあります。それにより、以下が起きることがあります。
痛風
痛風は、関節の中に尿酸結晶が沈着することで発症します。高尿酸血症の患者数の増加とともに、痛風の患者さんも増加しています。
初期症状として足の親指の付け根に激烈な痛みがあり、腫れ(腫脹)や赤み(発赤)が見られることが多いです。
足の親指の付け根以外にも、足首、膝、手首、手指などの関節が腫れることもしばしばあります。手指の関節が腫れる場合などは、関節リウマチなどの関節炎を起こす病気と見分けがつかないこともあり、様々な検査を組み合わせて最終的な診断をします。
痛風は通常1週間以内に治ることが多いですが、再発を繰り返すことが多く、放置すると関節が破壊されてしまいます。そのため「痛風の再発予防」で詳しく述べていますが、痛みがなくなった後も適切に治療を行うことが重要です。
腎臓結石・尿管結石
腎臓結石とは、腎臓の「腎盂」という尿の通り道の中に結石がある状態です。この腎臓結石により痛みが出ることは通常ありません。
この腎臓結石が尿管に落ちることで「尿管結石」の状態になりますが、結石が尿管にはまり込むことにより激烈な痛みが生じることがあります。痛みがあまりに強いため、救急車で搬送されて医療機関を受診されるケースもしばしばあります。
検査としては尿検査、腹部超音波、腹部CT検査を組み合わせて診断します。
慢性腎臓病
上述のように、慢性腎臓病により尿酸の尿へ排泄されづらくなることにより高尿酸血症になってしまうことがありますが、一方高尿酸血症が持続すると尿酸が腎臓に沈着することにより腎機能が悪化してしまう事があることが知られています。
尿酸が腎臓に沈着する状態を「痛風腎」と呼ぶこともあり、通常は痛風患者で起きると言われています。(すなわち、尿酸はまず関節に沈着すると言う事です)
心血管疾患
いくつかの研究で、高尿酸血症の方では脳梗塞や心筋梗塞などの心血管病の発症が多かったことが報告されています。一方、心血管病の発症は増えなかったと言う報告もあり、今後の更なる検証が待たれる状況です。
尿酸値が低いとどうなるか 低尿酸血症
尿酸値2.0mg/dl以下の状態を低尿酸血症と定義します。
主に腎臓からの尿酸の排泄が増えることにより起こりますが、比較的稀な現象です。
多くは無症状で問題ありませんが、運動後急性腎障害や尿管結石を合併することがあります。
尿酸値が高い時の対応 治療
高尿酸血症の治療としては、生活習慣の改善と薬物治療が2本柱になります。
生活習慣の改善
生活習慣の改善として食事療法、アルコール摂取制限、運動療法のそれぞれが重要です。
また、高尿酸血症の患者さんは高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満などの生活習慣病を合併することが多いことが知られており、これらを併せて治療することが重要です。
ガイドラインでは、以下のようなフローチャートで高尿酸血症の治療を行うことを推奨しています。
「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版」より引用
要約しますと、
まず生活習慣の改善を行い、3ヶ月後程度を目安に尿酸値が下がらない場合には薬物治療を検討します。
特に痛風のある患者さんでは尿酸値6.0mg/dL以下と低くした方が良いとされております。
その他の*合併症のある患者さんでは尿酸値8.0mg/dL以下が目安になります。
尿酸値が9.0mgを超えると痛風を発症するリスクが急上昇するというデータがあり、合併症のない患者さんでは9.0mg/dL以下で管理することが目安になります。
実際に薬物治療を行うかどうかに関しては、主治医と患者さんで個別に相談して決定します。
*合併症とは、慢性腎臓病、尿路結石、高血圧、心血管疾患、糖尿病、メタボリックシンドロームのことを指します。
食事療法
プリン体を多く含む食事を摂取すると尿酸値が上昇するため、プリン体の1日の摂取量としては400mg程度以下にすることが推奨されています。具体的には、以下を参考に栄養士の先生とも相談をして食事内容を検討します。
「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版」より引用
高尿酸血症(痛風)に好ましくない食事 痛風鍋
痛風鍋とは魚介類を用いた海鮮鍋ですが、牡蠣、あん肝、白子が使われているのでプリン体を多く含み、痛風になりやすい鍋ということで「痛風鍋」と呼ばれています。
高尿酸血症(痛風)に良い食べ物
痛風のリスクを下げる飲食物としてコーヒー、チェリー、ビタミンC、乳製品(特に低脂肪乳製品)、食物繊維が報告されています。
「DASH食」、「地中海食」のような食生活のスタイルが提案されています。両者は似ている点も多く、具体的には以下のような形でまとめられます。
野菜、果物、全粒穀物、低脂肪または無脂肪の乳製品(低脂肪ミルク、低脂肪ヨーグルトなど)の摂取を増やす。
食塩、砂糖や甘い飲み物、肉類(赤身肉)の摂取を減らす。
(食事の一例)
朝食: 全粒パンにアボカドと卵、フルーツ、低脂肪ヨーグルト
昼食: グリルチキンと野菜のサラダ、全粒パン
夕食: 焼き魚、蒸し野菜、玄米
このような食事を毎食用意することは難しいと思いますので、実際には宅配食を利用したりできる範囲で食事管理を行い、継続していくことが重要です。
アルコール摂取制限
アルコール摂取量が多いほど痛風のリスクが高まる事が知られており、適量に制限することが重要です。
アルコール飲料の中では、ビールが最も痛風のリスクが高いとされています。
摂取量の目安としては日本酒なら1合まで、ビールなら500mlまで、ウイスキーなら60mlまでにすることが推奨されています。
運動療法
ウォーキング、ジョギング、サイクリングなどの有酸素運動が勧められています。
具体的には、1日30-60分程度で、週180分以上行うことが勧められています。
運動により脱水になることにより尿酸値が上昇してしまい、それが痛風発作のリスクになりうるので、運動前後の水分補給を行うことが必要です。
運動強度に関しては、心血管疾患を合併している場合などに個別の検討が必要なので、医療機関で相談をしてください。
薬物治療
生活習慣の修正を行なった上で3ヶ月後程度に血清尿酸値の再検査を行い、尿酸値が目標値まで下がらない場合には薬物治療を行うことが検討されます。
薬物治療を行う際は、薬物治療の開始や増量の2~4週間後に受診し、採血や診察を行います。主な目的は、副作用(肝機能障害や皮疹)や尿酸値を確認する事です。
副作用がなく尿酸値が目標値に達していれば、その後は3ヶ月おき程度で採血検査を行い経過観察をしていきます。
一般的に使用される薬物は大きく分けて、体内での尿酸の産生を抑える「尿酸産生抑制薬」と尿からの尿酸の排泄を増やす「尿酸排泄促進薬」に分かれます。
尿酸産生抑制薬
アロプリノール、フェブキソスタット、トピロキソスタットという種類の薬剤があります。
尿路結石、慢性腎臓病を合併している患者さんで使用しやすい薬剤です。
特にアロプリノールは安価であるためまず使用されることが多い薬剤です。
尿酸排泄促進薬
プロベネシド、ベンズブロマロンというという種類の薬剤があります。
尿路結石の患者さんには使用することが禁止されており、また慢性腎臓病を合併している患者さんでは尿酸値を低下させる効果が弱いことが知られています。
いかがでしたでしょうか。名古屋で高尿酸血症での外来受診をお考えであれば、是非金山駅前の当院への受診をご検討ください。
より詳しく知りたい方に関しては、三和化学研究所の高尿酸血症・痛風が非常によくまとまっていますので、一読をお勧めいたします。
参考文献
高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版
この記事の執筆担当者:中村嘉宏(総合内科専門医)