メトトレキサート
メトトレキサートとは
メトトレキサートは、関節リウマチの患者さんの治療の第1選択薬(まず最初に使用する)となる薬剤です。全世界の関節リウマチの患者さんの過半数が服用しており、治療の中心となる薬剤のため「アンカードラッグ」と呼ばれています。比較的安価であり、関節の破壊を抑え、生命予後(寿命)の改善も期待できる薬剤です。
関節リウマチの他にも、乾癬性関節炎、尋常性乾癬の患者さんでも治療薬として使用されています。
効果が出てくるのが比較的早く、早ければ2週間、遅くとも4~8週間以内には効いてくることが特徴です。
関節リウマチの患者さんに使用した場合、約7割の患者さんで関節の痛みや腫れが軽くなるという効果がみられ、約3割の患者さんはほぼ「寛解」という関節の痛みや腫れがほぼ無くなり疾患活動性をしっかり抑えられている状態になります。
メトトレキサートのみで効果が不十分な場合には、「その他のリウマチ薬(csDMARD)」や「生物学的製剤(bDMARD)」など他の薬剤を組み合わせていくことで、さらに多くの患者さんの症状が改善します。
メトトレキサート 作用機序
メトトレキサートがどのように効くかに関してですが、主に葉酸というビタミンの働きを妨げることにより炎症を抑える効果が出ます。メトトレキサートにより細胞の中の葉酸の働きが抑えられると、関節の中で炎症をおこしている細胞は減って、関節の痛みや腫れを軽くする事ができます。
メトトレキサート 禁忌、慎重投与
メトトレキサートを内服してはいけない「禁忌」である患者さんもいるので、内服開始する前には問診や検査などでこれらに該当しないかの確認が必要です。以下に、使用できない禁忌の状態と、投与に慎重になるべき状態を記載します。ご自身が該当している場合には、主治医に伝えるようにして下さい。
慎重投与の場合でも、メトトレキサートを使うメリットがデメリットを上回ると判断した場合には、主治医と患者さんで十分に相談した上で内服を行う場合もありますので、主治医と相談するようにして下さい。
禁忌(使用不可)
妊婦または妊娠する計画のある患者、もしくは授乳中
重度の血液・リンパ系障害(目安として「白血球数 < 3,000/mm³」、「血小板数 < 50,000/mm³」
重度の肝機能障害(① B型またはC型肝炎を合併② 肝硬変③ その他の重度な肝障害)
高度な慢性腎臓病(腎糸球体濾過量(GFR)< 30 mL/分/1.73 m²)
高度な呼吸器障害
大量の胸水・腹水が存在する
慎重投与
感染症リスクが高い(65歳以上など)
血液・リンパ系障害(目安として「白血球数 < 4,000/mm³」、「血小板数 < 100,000/mm³」
血清アルブミン <3.0 g/dL
肝機能障害
慢性腎臓病(腎糸球体濾過量(GFR)< 60 mL/分/1.73 m²)
呼吸器障害
胸水・腹水が存在する
このようにメトトレキサートを使ってはいけない、使いづらい患者さんかどうかを判断するために、関節リウマチの診断時や治療中には採血やレントゲンで様々な検査を行います。検査の詳細に関しては「関節リウマチ 検査」をご参照いただけますと幸いです。
メトトレキサート 飲み方
通常、4〜6mgを週に1回から内服開始します。
また、葉酸を内服することで消化器症状、肝機能障害、貧血、口内炎の副作用をある程度予防できるため、葉酸である「フォリアミン」5mgを、メトトレキサートを内服した1~2日後に、週に1回内服します。(メトトレキサートを水曜日に内服したら、木曜日か金曜日にフォリアミンを内服)
日本リウマチ学会「メトトレキサートを使用する患者さんへ 第4版」より引用
内服開始時には2週間おき程度に受診して頂き、診察や採血で副作用が出ていないことを確認しながら徐々に増量していきます。症状を見ながら、最終的に12〜16mgを週に1回程度まで増量します。
メトトレキサート 皮下注射
メトトレキサートの皮下注射製剤である「メトジェクト」が2022年より発売されております。内服よりも消化器症状の副作用が出にくいというメリットがある一方、「内服よりも薬価が高い」「自分で注射をしなければいけない」というデメリットがあります。
「メトジェクト皮下注射」は「メトトレキサート内服」に比べて高価ではありますが、同等の効果が期待できます。そのため、消化器症状のためメトトレキサート錠が内服できない、増量できないという患者さんではメトジェクト皮下注射への切り替えが検討されます。
経口投与から皮下注投与へ切り替える場合の用量調整の目安を下に示します。
経口 | 皮下注射 |
---|---|
6mg | 7.5mg |
8~10mg | 7.5または10mg |
12~16mg | 10または12.5mg |
投与間隔はメトトレキサートの内服と同様で、メトトレキサートの皮下注射をした1~2日後に、週に1回内服します。
日本リウマチ学会「メトトレキサートを使用する患者さんへ 第4版」より引用
注射する場所は主におなかや太ももで、場所は左右交互にするなど毎回変更するようにしてください。
日本リウマチ学会「メトトレキサートを使用する患者さんへ 第4版」より引用
保管方法ですが、25℃以下の直射日光の当たらない場所で箱のまま保管してください。冷蔵庫で保管する場合は、凍結しないよう注意してください。また、注射直前まで箱を開封しないようにして下さい。
メトトレキサート 副作用
上述のようにメトトレキサートは非常に有用な薬剤ではありますが、一方副作用や注意点の多い薬剤でもあります。
以下に、主な副作用を記載します。
吐き気、胃の不快感、口内炎
1~10%の患者さんで見られると言われていますが、軽い症状であればメトトレキサートを継続できる場合もあります。減量して改善する場合もあるので、主治医と相談して下さい。
肝機能障害
肝機能障害は自覚症状がないことが多いため、受診するたびに採血で肝臓の機能を確認することが重要です。
血球減少症
頻度は5%未満と言われていますが、白血球、赤血球や血小板が減少することがあります。血小板が高度に減少すると、皮膚に赤い斑点や紫斑が見られることがあります。
間質性肺炎(薬剤性肺炎)
頻度は1%未満と言われていますが、メトトレキサートの副作用で肺の一部に炎症が起こる病気である「間質性肺炎」を起こしてしまうことがあります。この「間質性肺炎」は関節リウマチが原因になることもあるので、発症早期には何が原因か判断が難しい場合があります。「38度以上の高熱」「咳や息苦しさが続く」というのが典型的な症状です。
感染症
メトトレキサートは全身の免疫を抑える作用があるため、肺炎、尿路感染症、帯状疱疹、ニューモシスティス肺炎などの様々な感染症にかかってしまう危険性が上がります。発熱がある場合には、医療機関で原因を調べることが重要です。
悪性リンパ腫
稀な副作用ですが、血液疾患であるリンパ腫を発症してしまうことがあります。ただし関節リウマチの症状が重いほど悪性リンパ腫の発症率も上がるといわれているため、過度に恐れすぎずにメトトレキサートでしっかり治療をすることが大切と考えています。
首や脇の下のしこりや腫れが出た場合には、悪性リンパ腫を疑い精密検査を行う必要があります。
このように多くの副作用がありますが、定期的に検査をしていれば問題にならないことが多いです。また仮に副作用が出たとしても早期に診断して治療を行えば治癒することが多いです。メトトレキサートは世界中で最も使用されており、効果と副作用のバランスも最もよいといわれている飲み薬ですので、必要な状況では早期に内服開始することをお勧め致します。
メトトレキサート使用中の注意点
生活で気をつけるべきこと
喫煙はしない
過度な飲酒は避ける
適度な運動をする
規則正しい生活習慣を身につける
脱水に気をつける
予防接種で気をつけるべきこと
以下が基本的な内容ですが、予防接種の内容は、主治医と相談して決めるようにして下さい。
生ワクチンは避ける
BCG、麻疹、風疹の生ワクチンは、感染してしまう恐れがあるので避ける必要があります。帯状疱疹の生ワクチンである「ビケン」は避ける必要があります。
不活化ワクチンは積極的に受ける
インフルエンザ、肺炎球菌、新型コロナウイルスワクチンは不活化ワクチンなので積極的に受けるようにして下さい。帯状疱疹の不活化ワクチンである「シングリックス」は安全に使用できます。
体調不良時の対応
体調不良時の対応(シックデイ)でもご説明していますが、発熱、下痢、嘔吐、食事が摂れない、脱水症状(尿の出が悪い)、などの体調不良時にはメトトレキサート服用を中止して下さい。迷う場合にはかかりつけの医療機関に連絡をして下さい。
メトトレキサート内服中に、38度以上の高熱、咳や息苦しさが続く、口の中のただれ、かだら中に青あざができる、首のまわりや脇の下のしこり、などの症状が見られた場合には速やかにかかりつけの医療機関に連絡、受診をして下さい。
日本リウマチ学会が出されている「メトトレキサートを使用する患者さんへ 第4版」はとてもわかりやすくまとまっていますので、一読をお勧め致します。
参考文献:関節リウマチ診療ガイドライン2024、メトトレキサート使用と診療の手引き2023年度版、日本リウマチ学会「メトトレキサートを使用する患者さんへ 第4版」
この記事の執筆担当者:中村嘉宏(リウマチ専門医、指導医)