糖尿病
糖尿病とは
食事を摂ると、その栄養の一部は糖として腸管から体内に取り込まれます。体内に取り込まれた糖は、インスリンという膵臓から出るホルモンにより細胞内に取り込まれます。
糖尿病とは、このインスリンが十分に働かないために血液中から細胞内にブドウ糖を取り込めず、それにより血液中のブドウ糖濃度が高い「高血糖」の状態が持続する疾患です。
高血糖の状態が持続すると、全身の血管が障害されることにより神経、眼、腎臓、心臓、脳など様々な臓器に合併症を起こしてしまうことが知られています。
初期には自覚症状がないことが多いため放置されてしまうことがしばしばありますが、発症早期から適切に治療し血糖をコントロールすることにより下記のさまざまな合併症が起きてしまう危険性を下げられます。そのため、健康診断の結果や下記の自覚症状などで糖尿病の可能性がある場合には、早期に医療機関に受診することが重要です。
糖尿病の原因、タイプ
糖尿病はほとんどが1型、2型に分類されますが、90%の方が2型糖尿病です。
1型糖尿病
1型糖尿病は、インスリンを分泌する膵臓のβ(ベータ)細胞が破壊されてしまい、インスリンが作れなくなることが原因です。15才未満で発症することが多いですが、成人で発症することもあります。
2型糖尿病
2型糖尿病は、遺伝的素因に加えて肥満、過食、運動不足などの生活習慣が発症に関与すると考えられております。成人で発症することがほとんどです。
これらの他にステロイドなどの薬剤による副作用や、膵癌も糖尿病の原因になり得ます。
糖尿病の症状
糖尿病の初期症状
症状は見られないことが多いですが、高血糖が顕著になった場合の初期症状として「喉が渇き水をたくさん飲む」「トイレが近い、尿の量が増える」「体重が減る」「吐き気、嘔吐」などの症状が起こります。これらの症状が出た場合には緊急で治療が必要なことが多いので、速やかに医療機関へ受診することが重要です。
糖尿病の合併症による症状
糖尿病の合併症により神経、眼、腎臓、が障害されると、それぞれ手足が痺れる、視力低下、目が霞む、足がむくむというような症状が出現します。
糖尿病 検査
糖尿病の検査として、採血による血糖値とHbA1cを組み合わせて診断します。
血糖は、「空腹時血糖」「随時血糖」「75 g経口ブドウ糖負荷試験による血糖」に分けられます。
「空腹時血糖」
朝食前に測定した血糖値を指します。
「随時血糖」
食事と関係なく測定した血糖値を指します。
「75 g経口ブドウ糖負荷試験による血糖値」
は空腹時に75gのブドウ糖を含む溶液を飲み、30分後、1時間後、2時間後に測定した血糖値を指します。
「HbA1c」
過去1~2ヶ月前の血糖値の平均を反映します。
下の図に、HbA1cの値と平均血糖値の、おおよその関連を示します。
HbA1c(%) | 平均血糖 (mg/dL) |
5 | 97 |
6 | 126 |
7 | 154 |
8 | 183 |
9 | 212 |
10 | 240 |
11 | 269 |
12 | 298 |
糖尿病 診断基準
糖尿病は、上述の血糖値とHbA1cを組み合わせて診断されます。
具体的には、HbA1cが6.5%以上で、かつ以下の①〜③を満たすものを糖尿病と診断します。
① 早朝空腹時血糖値が126 mg/dl以上
② 75 g経口ブドウ糖負荷試験の2時間値が200 mg/dl以上
③ 随時血糖値が200 mg/dl以上
さらに、ガイドラインでは以下のように細かくフローチャートが記載されており、これに準拠して診断を行っていきます。
糖尿病ガイドライン2024より引用
糖尿病 合併症
糖尿病の罹病期間が長くなるに従って神経、眼、腎臓の順番に障害されていき、これらは糖尿病の三大合併症と言われております。細い血管に起こる障害が原因となります。
ただし、近年神経障害がない段階でも眼や腎臓の障害が起きている患者さんも多いことがわかっています。
糖尿病性神経障害
手足の神経が障害されると、手足が痺れる、ピリピリ痛むなどの症状が出現することがあります。温度や痛みを感じにくくなり、火傷や怪我の原因になることもあります。
また、自律神経が障害されることにより、起立時のふらつき、勃起しづらい、汗をかきづらいなどの症状が出ることもあります。
糖尿病性網膜症(眼の病気)
糖尿病の患者さんの20~40%で網膜症(眼の病気)を合併します。
一旦網膜症が進行すると血糖が改善しても治癒しないとされており、糖尿病と診断された場合には網膜症がなくても年に1回の眼科受診が必須になります。また、網膜症がある場合にはより頻回に通院が必要になります。
糖尿病性腎症
高血糖が持続することにより腎臓が障害されます。一般的には、糖尿病になってから5年後以降に腎臓病が起きると言われておりますが、初期には自覚症状がありません。
そのため、腎臓が障害されているかどうかを判定するために尿検査を行い、尿蛋白、尿アルブミンが出ていないかを確認することが重要です。
糖尿病性腎症は、現在透析になってしまう原因の第一位です。様々な薬剤の選択肢が出てきていますが、腎症が進行してしまうと透析になることを防げない症例も多く、早期発見及び早期治療が極めて重要です。
糖尿病性腎症に関して詳しく知りたい方は、以下をご参照ください。
上記の他にも足(末梢性動脈疾患)、心臓(心筋梗塞、狭心症)、脳(脳梗塞、脳出血)などの臓器が障害されることがあり、これらは太い血管に起こる障害が原因となります。
また、歯周病、脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群、骨粗鬆症を合併しやすいことも特徴です。
感染症を起こした場合に重症化しやすいため、その予防としてインフルエンザ、COVID-19などのワクチン接種を行っておくことも重要です。
糖尿病の合併症に関して詳しく知りたい方は、以下をご参照ください。
糖尿病の診断後の検査や観察項目
糖尿病と診断された場合には、身体診察に加えて以下の検査を定期的に行います。
採血(血糖、HbA1c、腎機能、肝機能、脂質異常)
心電図(心疾患)
眼科受診
尿検査(腎症)
歯科受診
フットケア
上記の他に、医師の判断により腹部超音波検査(膵臓)、心臓超音波検査(狭心症)、頚動脈超音波検査、ABI検査(足の血管)、アプノモニター(睡眠時無呼吸症候群の検査)、骨密度検査、inbody検査を適宜行います。
糖尿病の治療目標
糖尿病の治療は、HbA1cを目安として行います。Hb1Acが低ければ低いほど良いと言うわけではありません。と言うのも、例えば血糖を下げ過ぎてしまうと低血糖となってしまい、それにより意識状態が悪くなってしまうようなリスクがあります。
そのため、治療目標のHbA1cは年齢、低血糖の危険性、内服している薬剤などにより決定されます。主治医と患者さんで治療目標値を共通認識として共有することは非常に大事なので、具体的な数字に関しては主治医とご相談してください。
ガイドラインには、具体的には以下のように記載されております。
糖尿病ガイドライン2024より引用
また、糖尿病患者さんは肥満、高血圧、脂質異常症などを合併する頻度が高いことが知られており、これらの管理が不十分の場合は脳、心臓、血管などの重要臓器が障害されてしまうリスクが上昇してしまうため、合わせて適切な治療を行うことが重要です。
糖尿病の治療
糖尿病と診断された後に、まずすぐに薬物療法(特にインスリン)を開始すべき状況かを医師が判断します。具体的には、HbA1cが10%以上の時などにはインスリンを診断早期から開始することが検討されます。
HbA1cが7~8%未満で薬物療法を急ぐ状況ではないと判断された場合には、食事指導、運動指導を行なった上でHbA1cが改善するかを2-3ヶ月間を目安に経過を見ます。その上で、血糖コントロール目標が達成できない場合には薬物療法を行います。
食事療法
肥満(BMI25kg/m2以上)を伴う2型糖尿病患者さんにおいては、エネルギー摂取量の制限が推奨され、5%以上体重を落とすようにダイエットをすることが勧められています。
肥満でない患者さんにおいてもエネルギー摂取量の制限が好ましい場合がありますが、制限することで筋肉が落ちてしまうこともあり、個々の患者さんの状態(年齢、合併症、運動量など)に応じて設定されます。
ライフスタイルに応じて最適な食事は変わってきますので、栄養士と相談しながら実行可能な目標を立てることが重要です。まずは現在どのような食事習慣であるかを質問させて頂き、それに応じて改善策を一緒に考えます。
運動療法
ウォーキング、ジョギングなどの有酸素運動と、スクワットや腕立て伏せなどのレジスタンス運動を併用することが勧められています。
糖尿病の状態、眼、腎臓、神経、心臓や血管の状態により、実施して良い運動の強度が変わってくることと、状態によっては運動禁止、制限が必要な場合があります。運動を開始する際には主治医に相談するようにしてください。
有酸素運動
週に合計150分以上、3回以上に分けて行うことが推奨されています。ウォーキングであれば、1日あたりの歩数が8000-9000歩が目安になりますが、年齢、体力によって目標は大きく変わり個別性が高いため、運動強度の目標に関しては医療機関で相談をしてください。
レジスタンス運動
週に2~3回、連続しない日程で行うことが推奨されます。ここの筋力に応じて、無理のない範囲で行っていくことが重要です。
上半身の運動として腕立て伏せ、ダンベル、ベンチプレスなどがあり、下半身の運動としてはスクワット、レッグプレスなどがあります。
腕立て伏せ、スクワットは器具を必要としないため、レジスタンス運動の習慣がない方はこの辺りから取り組んでみるのが良いかと思います。
薬物療法
内服薬であるビグアナイド薬、DDP-4阻害薬、SGLT2阻害薬などを使用して治療を行います。薬剤種類の選択は患者さんの状況に応じて判断されますが、基本的には1剤使用して、効果が不十分であればもう1剤追加という形で徐々に薬物を増やしていくのが一般的です。
内服薬で効果が不十分の場合にはインスリンが考慮されます。
糖尿病標準診療マニュアル2024では以下のように記載されております。
糖尿病標準診療マニュアル2024より引用
薬物治療の流れや各薬剤に関する詳しい情報は、「糖尿病 薬物療法」をご参照頂けますと幸いです。
糖尿病 予防するためには
ここまで、糖尿病の概要を説明させて頂きましたが、まずは糖尿病にならないように、予防することが重要です。そのためには、以下が有用であると考えられています。
食生活を整える
適度なエネルギー量で、バランスが良く、規則正しい食事を心がけましょう。
運動する
上述のように、有酸素運動とレジスタンス運動を併用して、週に合計150分以上、3回以上に分けて行うことが良いとされています。
適正体重を保つ
肥満(25.0kg/m²以上)では糖尿病を発症しやすいことがわかっています。また、青年期にBMI22.0kg/m²以上である場合には、将来の糖尿病の発症リスクが上昇したと日本国内より報告されており、糖尿病の予防という観点からはBMIを22kg/m²未満に管理した方が良い可能性が示唆されています。
健康診断を毎年受ける
毎年健康診断を受けて、医療機関への受診を勧められた場合には必ず受診しましょう。基本的なことではありますが、受診の指示があったにもかかわらず受診できず、糖尿病が悪化して合併症を起こしてしまう方もいらっしゃいます。
低血糖とシックデイ
低血糖
糖尿病で治療中の方では、様々な理由で低血糖状態(血糖値が70mg/dL未満)になってしまうことがあります。
低血糖は命に関わることがありますので、事前に対応について主治医と相談をしておく必要があります。
詳しくは「低血糖」をご参照ください。
シックデイ
糖尿病患者さんの「シックデイ」とは、感染症などの病気により通常の食事や生活が困難になる日を指し、低血糖を起こしてしまう危険性があるため適切な対応が必要です。これに関しても、事前に対応について主治医と相談をしておく必要があります。
詳しくは「シックデイ」をご参照ください。
いかがでしたでしょうか。
糖尿病は放置してしまうと、上述のようにさまざまな合併症を起こしてしまいます。それらを防ぐためにも早期診断、早期治療を行うことが重要です。
名古屋で糖尿病での外来受診をお考えであれば、是非金山駅前の当院への受診をご検討ください。
参考文献:糖尿病標準診療マニュアル2024、糖尿病ガイドライン2024
この記事の執筆担当者:中村嘉宏(総合内科専門医)