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糖尿病性腎症

糖尿病性腎症とは

糖尿病性腎症とは糖尿病の代表的な合併症の一つで、糖尿病により高血糖が持続することが原因で腎臓に障害が起きてしまう疾患です。糖尿病の患者さんの約半数が慢性腎臓病であると言われており、糖尿病と慢性腎臓病には密接な関わりがあります。

糖尿病性腎症の典型的な経過としては、糖尿病になってから5年後以降に腎臓病が起きると言われておりますが、糖尿病の診断時に糖尿病性腎症を合併していることも珍しくありません。

糖尿病性腎症は、透析を開始する原疾患として最も多い疾患で約40%は糖尿病性腎症が原因と報告されています。年々増えておりましたが、糖尿病性腎症の治療の進歩もあり近年少しずつ減り始めております。

日本透析医学会 2022 年透析導入患者の動態より引用

 

様々な薬剤の選択肢が出てきていますが、腎症が進行してしまうと透析になることを防げない症例も多く、早期発見及び早期治療が極めて重要です。

糖尿病性腎症 ステージ

糖尿病性腎症の病期分類(ステージ)は、慢性腎臓病の病期分類とは別に分類基準が決められています。

以下のように尿中のアルブミン/クレアチニン比と、腎機能である推定糸球体濾過量(eGFR)によって分類されます。

CKD診療ガイド2024より引用

 

尿アルブミン/クレアチニン比が30mg/g未満の場合は第1期(正常アルブミン尿期)、尿アルブミン/クレアチニン比が30-299mg/gの場合を第2期(微量アルブミン尿期)と定義します。

特に重要な点としては、「微量アルブミン尿期」に至っているかどうかです。この微量アルブミン尿期の時点ではむくみなどの自覚症状がないことが大半ですが、すでに腎臓に障害が起きていることのサインであり、厳格に治療を行なっていくことが必要になります。

この「微量アルブミン尿期」に至っているかを確認するために、糖尿病の患者さんでは定期的に尿中のアルブミン検査を行っていく必要があります。

 

慢性腎臓病の病期分類(ステージ)に関しては以下をご参照ください。

糖尿病性腎症の典型的な経過

糖尿病性腎症の典型的な経過としては、糖尿病が発症した5年後以降に少しずつ微量アルブミン尿が出始めて第2期(微量アルブミン尿期)になり、さらに尿のアルブミンが増加し第3期(顕性アルブミン尿期)に移行します。この時点では、腎臓の機能を示す推定糸球体濾過量(eGFR)はほとんど低下しておらず、むくみなどの症状が乏しいことが多いです。

ですが、その後急激にeGFRが低下し、数年(10年以内)の間に透析になってしまうというような経過が、糖尿病性腎症の典型的な経過です。

腎機能が悪化する原因の中でも、糖尿病性腎症は特にこのeGFRの低下スピードが早いことが知られています。この急激にeGFRが低下してしまう状況ですとできることは限られてしまうため、第2期(微量アルブミン尿期)などの早期に対策を講じる必要があります。

CKD 診療ガイドライン 2012より引用

糖尿病性腎症 診断

糖尿病の患者さんでアルブミン尿が出ていたり腎機能が悪化してきた場合にはまず糖尿病性腎症を疑いますが、必ずしも糖尿病+腎臓の異常 = 糖尿病性腎症というわけではなく、他の腎臓の病気の可能性を考える必要があります。

最も確実に診断をする方法は「腎生検」という腎臓を針で穿刺して組織を取る方法です。その組織を顕微鏡で観察し、最終的な診断を行います。この腎生検は確実に診断ができるための非常に重要な検査方法ですが、「針で穿刺するため大出血などの危険性がある」そのため「入院を要する」などのデメリットがあるため、糖尿病性腎症が疑われた場合に全ての患者さんには行いません。

実際に腎生検を行うかは患者さんの個別の状況で判断されますが、特に以下のような患者さんでは腎生検を行うことを積極的に考慮します。

糖尿病発症後5年以内
尿検査で血尿がある方
糖尿病性網膜症がない方

糖尿病性腎臓病とは

糖尿病性腎症の典型的な経過としては、まずアルブミン尿が認められ、その後にeGFR(腎機能)が低下してくると言うことが知られています。ですが、近年糖尿病患者さんの高齢化などを背景に、アルブミン尿を認めずに腎機能が低下し慢性腎臓病に至る糖尿病の患者さんが増えてきております。この患者さんを含む概念は、糖尿病性腎臓病(DKD)、ないしは糖尿病関連腎臓病と呼ぶようになっています。

さらに糖尿病の関連しない、IgA腎症などが原因の腎臓病の患者さんが糖尿病を合併することも多く、この患者さんを含む概念は糖尿病合併CKD(慢性腎臓病)と呼ぶようになっています。

日本腎臓学会のガイドラインには、以下のような概念図が図示されています。

CKD 診療ガイドライン 2023より引用

糖尿病性腎症 治療

糖尿病性腎症の治療は、概ね慢性腎臓病の治療に準じます。詳しくは以下でご説明をさせて頂きます。

また糖尿病性腎症の患者さんは腎症を発症する以前に糖尿病を有しており、まずは糖尿病の治療が重要です。

腎症を合併することで一部治療方針が変わる部分もありますが、糖尿病の治療に関しては以下をご参照ください。

 

ここでは、糖尿病性腎症の治療で特に知っておくと良い点に関して解説をさせて頂きます。

以下のフローチャートのように糖尿病性腎臓病と診断された際には、まずは食事、運動、体重などについて医師や栄養士などと相談し目標を決めて行きます。

糖尿病性腎症の場合には特に使うと良い薬剤ですが、糖尿病の管理に関しては「SGLT2阻害薬」の使用を優先的に検討します。

糖尿病性腎症の方は高血圧を合併することが多いですが、高血圧のの薬物治療に関してはACEIやARBなどの「RAS系阻害薬」の使用を優先します。

CKD診療ガイド2024より引用

SGLT2阻害薬

SGLT2阻害薬は腎臓でブドウ糖が再吸収されるのを抑え、尿と一緒にブドウ糖排出して血糖値を下げる効果がある糖尿病の治療薬です。

日本では2014年に発売され、それ以降に国内においても様々な有効性が報告されてきています。

近年、SGLT2阻害薬に関する多くの論文が発表されており、体重が減らせること、高血圧の改善効果があること、心血管病を起こしづらくなること、慢性腎臓病で腎機能が保たれ透析になりづらくなることが報告されております。そのため、糖尿病性腎症の患者さんの薬物治療では、まず使用を検討します。

eGFR  15mL/分/1.73 m²未満の高度な慢性腎臓病ではデータに乏しく、新規に使用しないことが好ましいと考えられています。

RAS系阻害薬

RAS(レニン・アンジオテンシン)系阻害薬は、高血圧の治療薬の一つです。

高血圧症を合併する慢性腎臓病の患者さんに使用することで、心血管病の発症抑制、寿命の延伸、腎臓の機能が落ちづらくする、という効果が示されており、非常に重要な薬剤です。

特に蛋白尿の多い患者さんで有効性が高いことがわかっておりますが、糖尿病性腎症は蛋白尿が多いことが特徴です。そのため、糖尿病性腎症の患者さんで高血圧を合併している場合には、積極的にRAS系阻害薬の使用を検討します。

 

 

いかがでしたでしょうか。糖尿病性腎症は腎機能が急激に悪化する前に早期診断,早期治療が重要ですが、この段階で標準治療が受けられていない患者さんが多くいるのが問題と考えています。透析を防ぐためには、早期からの専門機関での適切な診療が不可欠だと思います。

東海エリア、名古屋市で腎臓内科専門医の外来をお探しであれば、金山駅前の当院への受診をご検討ください。

 

参考資料:CKD診療ガイド2024、CKD 診療ガイドライン 2023、日本透析医学会 2022 年透析導入患者の動態、糖尿病性腎症重症化予防 事業実施の手引き、FBR作成ツールを活用した糖尿病性腎症重症化予防マニュアル、CKD 診療ガイドライン 2012

この記事の執筆担当者:中村嘉宏(腎臓内科専門医、指導医、評議員)

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